第4章 なぜ25mで終わらないのか

― 「泳げた」を「いつまでも泳げる」に ―

25m完泳は、大きな成長

―25mの先にある泳力―

水泳を習い始めた子供にとって、25mを泳ぎ切ることは大きな目標です。

顔を水につけることもできなかった子が、水に浮けるようになる。

バタ足ができるようになる。

手を回せるようになる。

息継ぎを覚える。

そして、ついにプールの端から端まで25mを泳ぐ。

初めて25mを泳ぎ切った時の子供の表情は、指導者にとっても嬉しいものです。

しかし、ようどう館では25mを「ゴール」とは考えていません。

なぜなら、

25mを一度泳げたことと、泳力が身についたことは、必ずしも同じではないからです。

25mは、とても大切な到達点です。

同時に、そこから本当の意味で「泳げる」ようになっていくための出発点でもあります。


1.25mクロールは大きな節目

ようどう館では、水に慣れるところから練習を始めます。

顔を水につける。

力を抜いて浮く。

バタ足をする。

手を回す。

そして息継ぎを覚える。

こうした段階を一つずつ進み、クロールで25mを泳げるようになります。

テスト会基準では、クロール25mを泳ぐことが11級合格の基準です。

25mという距離は、単なる数字ではありません。

スタートして少し進むだけなら、息継ぎが十分できなくても泳げる場合があります。

しかし25mになると、呼吸をしながら泳ぎ続けることが必要になってきます。

だからこそ、25mを泳ぎ切った時には、

「泳げるようになった!」

という大きな達成感があります。

その喜びは大切にしたい。

しかし、そこで練習を終えてしまうのは、ようどう館が目指している泳力から見ると、まだ途中なのです。


2.そもそも「25m泳げる」とは?

第505号「泳力を把握していますか?」では、「泳げる」という言葉の曖昧さについて考えています。

ある時、他のスイミングスクールから、ようどう館の強化コースを体験しに来た子がいました。

保護者からは、数年間スイミングに通っていると聞いていました。

ところが実際に泳いでもらうと、様子が違います。

本人に尋ねると、息継ぎができないことが分かりました。

これは、そのスクールの指導が良いか悪いかという話ではありません。

「泳げる」という言葉の意味や、進級基準が、施設によって違うということです。

ようどう館の体験申込書では、泳力を、

A.顔つけ・浮き身
B.バタ足・手回し
C.息継ぎができる
D.25m以上泳げる

というように分けています。

同じ「水泳を習ったことがある」という子でも、実際の泳力はさまざまです。

また、本人が思っている泳力と、保護者が把握している泳力が違うこともあります。

だからこそ大切なのは、

その子が今、実際に何ができるのかを見ること。

「何年習ったか」でも、「○級を持っているか」だけでもなく、現在の泳ぎそのものを見る。

そこから指導は始まります。


3.一度25m泳げても、それで終わりではない

第501号「どこまで引っ張り上げるか?」には、25mの意味を考えさせられる経験が書かれています。

現館長が小学校で水泳指導をした時のことです。

子供達の中に、かつてようどう館に通っていて、園児の頃に25mを泳いでいた子が何人かいました。

ところが、久しぶりに泳がせてみると、以前は25m泳げていたのに、その時には泳げなくなっている子がいました。

これは少人数の経験ですから、

「園児で25m泳いでも、やめればみんな泳げなくなる」

という話ではありません。

しかし、一つのことは考えさせられます。

一度25m泳げたことと、その泳力が十分に定着したことは同じではない。

ということです。

水泳も、覚え始めの段階ではまだ不安定です。

息継ぎ。

身体の姿勢。

力の抜き方。

手足の動き。

それらを繰り返しながら、少しずつ「考えなくても泳げる」状態へ近づいていきます。

その意味でも、25mを一度泳いだところで終わらず、その先まで練習することには意味があります。


4.「年齢」ではなく「できること」を見る

第501号「どこまで引っ張り上げるか?」には、ようどう館の指導を考えるうえで重要な言葉があります。

「本館では年齢に関係なく、できることをやらせるようにしています。」

園児だから、ここまで。

低学年だから、この練習まで。

次のテスト会がまだだから、先へ進まない。

そういう考え方ではありません。

その子ができるのであれば、次の練習へ進みます。

第490号「チーム チーチング」にも、上達した子については、次のテスト会を待たずに上のコースへ移すことがあると書かれています。

大切なのは、年齢だけで線を引くことではなく、

今、その子が何を身につけているのか。
次に何を練習できるのか。

を見ることです。

もちろん、早く先へ進めばよいという意味ではありません。

まだ十分に身についていないのであれば、繰り返す。

できるようになったのであれば、次へ進む。

子供の現在地を見ながら進めることが基本です。


5.園児でも25mを泳ぐ

第501号「どこまで引っ張り上げるか?」には、園児でクロール25mを泳いだ子供達の人数も記録されています。

2016年は52名。

2017年は62名。

2018年は53名。

2019年は56名。

この数字から言えるのは、「園児なら誰でも25m泳げる」ということではありません。

子供によって、水への慣れ方も、上達の速度も違います。

しかし、

園児だから25mはまだ早い

と、年齢だけで可能性を決める必要もないことが分かります。

できる子は先へ進む。

まだ難しい子には、その子に必要な練習をする。

ようどう館が見ているのは、年齢だけではなく、その子自身の泳ぎです。

なお、園児25m完泳者については、その後も別の集計が行われています。集計の対象や条件が異なる可能性があるため、異なる時期の数字を単純につないで増減を論じることはしません。

ここで重要なのは人数の多寡ではなく、年齢だけで子供の到達点を決めないという指導の考え方です。


6.25mを泳いだら、次は「楽に泳ぐ」

25mを泳げるようになった後、ようどう館が大切にしていることの一つが、

楽に泳げるようになること

です。

初めて25mを泳ぐ子は、どうしても力が入ります。

ゴールまでたどり着こうとして一生懸命泳ぐ。

それ自体は当然です。

しかし、力いっぱい泳ぐだけでは、長い距離を泳ぎ続けることはできません。

必要なのは、息継ぎを安定させ、余計な力を抜き、自分が続けられるペースで泳ぐことです。

第480号「有酸素運動で泳ぐ」で、現館長が50歳から水泳を始めた友人に繰り返し伝えた言葉があります。

「速く泳がんでよか!楽ちんに泳ぎんしゃい。」

これは競泳で速く泳ぐことを否定しているわけではありません。

目的が違うのです。

まず長く泳げるようになりたいのであれば、全力で飛ばす必要はない。

呼吸をしながら、無理のない速さで泳ぐ。

その泳ぎ方が身につけば、25mだった距離が50m、100mと伸びていきます。

ようどう館が25mの先で身につけてほしいのは、単に「もっと頑張って泳ぐ力」ではなく、

力を抜いて、呼吸をしながら、泳ぎ続けられる力

なのです。


7.クロール25mの次は、平泳ぎへ

第304号「手前味噌」には、ようどう館の指導課程が詳しく書かれています。

水慣れ。

顔つけ。

浮く練習。

脱力。

バタ足。

手回し。

息継ぎ。

クロール25m。

そして、その次に学ぶのが平泳ぎです。

クロールで泳ぐ感覚が身についてきた子供達は、次の泳法へ進みます。

平泳ぎでは、特にキックが一つの大きな壁になります。

クロールとは違う足の使い方を覚えなければなりません。

そして平泳ぎが上達すると、さらにバタフライや背泳ぎへ進んでいきます。

最終的には4泳法を身につけ、1級では200m個人メドレーへ。

つまり、ようどう館の指導課程を見ても、

25mクロールは完成地点ではなく、その後の水泳学習への入口

であることが分かります。


8.一つの大きな目標――100m平泳ぎ

ようどう館では、正しい平泳ぎで100mを泳ぐことが4級の合格基準です。

そして、退会する時点で4級以上の級を持っている子供を「修了生」としています。

ここは誤解しやすいところです。

4級に合格した瞬間に「修了生」になるわけではありません。

その後も練習を続ける子はたくさんいます。

退会する時点で4級以上の級を持っている場合に、ようどう館では修了生として認定しています。

2026年3月現在、その修了生は7,764名になりました。

なぜ100m平泳ぎなのでしょうか。

それは単に「25mの4倍だから」という話ではありません。

100mを泳ぐためには、短い距離を勢いだけで泳ぐのとは違い、呼吸をしながら、自分の身体をコントロールして泳ぎ続ける必要があります。

25mを泳げた後、泳力をさらに確かなものへしていく。

その一つの大きな節目として、100m平泳ぎがあります。


9.25mの後に続けた子供達は、どこまで伸びたのか

ようどう館では、25mクロールを泳げるようになった後の子供達についても調べています。

館内調査では、25mを泳げるようになった後、1年間継続した子供達のうち、

100mに到達した子 93.5%

平泳ぎを習得した子 45.1%

という結果が出ています。

この数字は、ようどう館における館内調査です。

すべての子供に同じ結果を保証する数字ではありません。

また、対象者の条件を無視して、入会したすべての子供の93.5%が100mを泳げるようになるという意味でもありません。

重要なのは、

25mを泳げるようになった後も練習を続けることで、その先の泳力へ進む子供が多くいる

ということです。

25mを泳げた時点では、まだクロールを覚え始めたばかりだった子が、1年後には100mを泳ぎ、平泳ぎへ進んでいることがあります。

25mの先には、それだけ大きな伸びしろがあります。


10.「最終泳力」を考える

第513号のタイトルは、

「最終泳力」

です。

水泳を習う以上、最後にどのくらいの泳力を身につけて終えるのか。

これは、とても大切な問題です。

25mを一度泳いだところで水泳をやめるのか。

50mまで泳げるようになるのか。

100mまで泳げるようになるのか。

平泳ぎも覚えるのか。

さらに4泳法へ進むのか。

同じ「スイミングに通った」という経験でも、最後に残る泳力は大きく違います。

第513号「最終泳力では、25mクロールを泳げるようになった後も、息継ぎを確かなものにし、無理なく泳げる力をつけることの重要性が語られています。

ようどう館が考える「最終泳力」は、単に進級表のどこまで進んだかだけではありません。

水泳をやめた後にも残る泳力を、どこまで身につけることができたか。

という考え方です。

だからこそ、25mを泳いだ瞬間だけを見るのではなく、その後を大切にします。


11.テスト会はゴールではなく、現在地を知るためのもの

ようどう館では、6月と12月の年2回、テスト会を行っています。

20級から1級まであり、1級の先には段があります。

しかし、テスト会の日まで次の練習へ進めないわけではありません。

できるようになれば、その子に合わせて先へ進みます。

第490号「チーム チーチング」には、上達した子供を、次回のテスト会を待たず上のコースへ移すことがあると書かれています。

テスト会は、子供を半年ごとに区切るためのものではありません。

その時点で、

何ができるようになったのか。
正しい泳ぎが身についているのか。
次に何を目標にするのか。

を確認する機会です。

ようどう館が長く大切にしてきたのは、タイムだけで評価することではなく、正しい泳ぎ方を身につけることです。

速さを求めるのは、その土台ができてからでも遅くありません。


12.「もう泳げる」から、「もっと泳げる」へ

25mを泳げるようになると、子供本人も保護者も、

「泳げるようになった」

と感じます。

それは間違いではありません。

25mは立派な泳力です。

だから、その達成を十分に喜んでよいのです。

しかし、ようどう館から見ると、その時にもう一つ伝えたいことがあります。

「せっかくここまで来たのだから、その泳力をもっと確かなものにしよう。」

息継ぎを安定させる。

力を抜いて泳ぐ。

距離を伸ばす。

平泳ぎを覚える。

100mを泳ぐ。

さらに4泳法へ進む。

25mまでに身につけたものを土台にして、その先へ進むことで、「泳げる」という力は少しずつ厚みを増していきます。

25mは、泳げないところから泳げるところへ渡る、大きな橋です。

しかし、橋を渡ったところで道が終わるわけではありません。

その先に、もっと長く、もっと楽に、もっと確かに泳げる世界があります。


13.25mの先に、400mがある

ようどう館が25mで終わらない最大の理由は、その先に、

「自分の命を守れる泳力」

という目標があるからです。

25m。

50m。

100m。

そして、さらにその先へ。

距離だけを競うわけではありません。

息継ぎをしながら、余計な力を使わず、落ち着いて泳ぎ続ける。

その力を積み重ねた先に、ようどう館が一つの目標としてきた400mがあります。

25mと400mの間には、大きな距離があります。

しかし、400mは突然泳げるようになるものではありません。

最初の「顔上げ足ピン」で力を抜くことから始まり、浮き、バタ足、手回し、息継ぎを覚え、25mを泳ぎ、その泳ぎを確かなものにし、少しずつ距離を伸ばす。

すべてはつながっています。

だからこそ、ようどう館では25mを大切にします。

そして同じ理由で、25mだけでは終わりません。

次の第5章では、いよいよ、

「なぜ400mなのか」

を詳しく見ていきます。

400mという数字は、どこから出てきたのか。

400m泳げることと、10分間浮いていられることには、どのような関係が確認されたのか。

そして、400m泳げても海や川での安全が保証されるわけではないのはなぜか。

ようどう館が「命を守れる泳力」を考えるうえで最も重要な部分へ進みます。


この章のまとめ

25mクロールを泳げるようになることは、子供にとって大きな達成です。

しかし、ようどう館では25mを最終目標とは考えていません。

一度25mを泳げても、その泳力が十分に定着しているとは限りません。

だからこそ、その後も、

息継ぎを確かなものにする。
力を抜いて泳ぐ。
楽に長く泳ぐ。
平泳ぎを覚える。
100mへ進む。
さらに4泳法へ進む。

という学習を続けます。

その際、年齢だけで「ここまで」と決めるのではなく、

「年齢に関係なく、できることをやらせる」

という考え方を大切にしてきました。

25mを泳げるようになった後、1年間継続した子供達についての館内調査では、93.5%が100mに到達し、45.1%が平泳ぎを習得しています。

また、正しい平泳ぎで100mを泳ぐ4級は、ようどう館における大きな節目であり、退会時に4級以上を持つ子供を「修了生」としています。

2026年3月現在、その修了生は7,764名です。

しかし、100mも最終的な目的そのものではありません。

ようどう館が見ているのは、その先です。

25mは、「泳げた」という喜びを得る場所。
その先は、「泳げる力」を自分のものにしていく時間。

そして、その積み重ねの先にあるのが、次章で取り上げる400mという一つの目標です。